第一話


「お!ロックウェル!お前、2組。俺と一緒のクラスだぜ」
「マジで!うぉーよかった!フランシスコは?」
「あー、あいつは3組。友達いないって、泣いてたよ」
「…(汗)そ、そうか。まま、教室行こうぜ」

春の香りうららかな今日は、ハプスブルク高校の始業式。
ロックウェルと呼ばれた青年は、肩までの整えられた金茶の髪を揺らし、相方の肩をたたいた。おう、と短く返事をし、ロックウェルとともに校舎に向かう相手はロベルトといい、色黒でバンダナを巻き、制服を着崩しており、およそまじめには見えない。彼らは今日から高校2年生。この二人は高校入学当時からの友達で、いつもフランシスコと三人でつるんでいる間柄である。ロックウェルはまじめで成績優秀、要領もよく教師たちの受けも良いが、ロベルトはその不真面目そうな容姿も手伝ってか、教師たちの受けはよくないが、この高校のサッカー部を全国大会まで導いたこともあり、教師たちも滅多なことは言えないでいた。表面はいいが、腹は真っ黒なロックウェルと、不良気質のロベルトは気が合うらしい。ちなみにフランシスコはロベルトの幼馴染で、ロベルト曰く、腐れ縁だそうだ。

がやがやとうるさい廊下を通り抜け、2組の教室にたどり着く。
「うわ」
ロックウェルの第一声がこれだ。ロックウェルの視線の先には…。

「おーロックウェル!また一緒のクラスじゃん、よろしくな!(^▽^)」

明るい金髪の爽やか青年、エミリオだ。

「…って、うわってひどくない!?(^▽^;)」
「お前はツッコミが遅くない?」

ハッと気だるげに息をはき、ロックウェルは自分の机にバッグを置いた。

「エミリオ、お前はそんなんだからバカにされんだよ」

ショックを受けるエミリオの横を素通りし、茶髪のソバージュをかきあげながら、青年がロックウェルに近づく。

「俺、キッド。ロベルトと同じサッカー部。よくあんたのこと聞いてるよ」
「へぇ。ロベルトは一体何て?」
「あーんな品行方正ぶってるけど、頭の中は女のことか自分の容姿のことしか考えてないって」
「ほほぉ」

やばい、と察知したロベルトはくるりと後ろを振り向き逃げようとするが、その手をロックウェルが掴んだ。

「いや、違うって!全然本当のことだけど、俺はそこまで言ったことがないようなあるような気がするくらいだって!」
「正直なやつめ。だがオレが自分の容姿を気にするのは、女の子のため、つまりオレは女の子のことしか考えてないってことだ」
「……(汗)」

立ち上がったロックウェルに、自分の発言を訂正されたロベルトは苦笑いを浮かべざるを得なかった…。
その様子を見てキッドがこらえきれないというように吹き出した。

「はっはは!ロックウェル、お前面白いな。気が合いそうだぜ」
「そりゃどーも。ま、よろしく」
「ロックウェル!オレ、キッドと親友!つまり、オレの親友の友達はオレの友達♪仲良くしよ〜!(^▽^)」

ショックから立ち直ったエミリオが果敢にもロックウェルに手を差し出し握手を求めた。

「あぁ~……うっざいな〜…こういうタイプはマジで上履き隠しておろおろさせた挙句見つかった上履きに『3日以内に死ぬ』ってブラックレター仕込んどいて精神的に追い詰めたくなるタイプ…。まぁこれから一年間一緒のクラスだし、こういうタイプはちょっとからかっただけで教師にチクりそうだからな…。ストレスはたまりそうだけど、一応仲良くしておくか…。…あぁ!よろしくな、エミリオ」
「待って!めっちゃ怖い独り言聞こえた!!(汗)」


「なぁ、なぁ。あれ誰だろ?あんな奴いたっけ?」

ロベルトが指差すほうを見ると、豪華な金髪を肩下まで伸ばし、色白で一見女性と見間違えてしまいそうな、整った顔立ちの男が机に教科書を並べ、整理しているところだった。

「ん?見たこと無いな。あんな金髪、目に付かないはずはねぇ」

ロックウェルがキッド、エミリオに目を向けると、二人とも見たことが無い、と首をふる。

「編入生か?」

ロックウェルたちは興味深々に金髪の彼を見た。彼はおそらくやることがないのだろう、緩慢な動作で教科書をぱらぱら眺めたりしていた。

「やっぱ編入生っぽいよな。友達いないみたいだし。…ってロックウェル?」
ロベルトがふと横を見ると、ロックウェルが話題の彼のもとに向かっていた。
「ロックウェル!(汗)」
「えっ何やってんだあいつ、早速編入生いじめとかしないだろーな…」

心配するキッドの言葉を聞いて、その意見に同調しながら、この短時間でこんなにロックウェルを理解できるなんてこいつただものじゃないな、とロベルトは思った。
心配ではあるが、とめて聞くような相手ではないのではらはらしながらも、三人は様子を見守ることにした。

「どーも。隣、座っていい?」
「…?あぁ、どうぞ」
「お邪魔しまーす」

まだ主が来ていないらしい隣の机の椅子を引き、ロックウェルは金髪の彼に話しかけた。

「君、編入生?見たことない気がするんだけど」
「うん、一年留学してて。だから君らより本当は一つ年上」
「やっぱり!こんなかっこいい奴、一度見たら忘れるわけないと思ってさ」
「ははっ。別に、そんなことないって」
「いや、君かなり目立つよ。俺、ロックウェルっていうんだ。君は?」
「フレデリック。よろしくな、ロックウェル」
「あぁ、よろしく」	

お互い笑い合い、打ち解けたのを確認すると、ロックウェルは後ろを振り向き、ロベルトたちにニヤッと笑って見せた。心配していたロベルトたちは、どうやらいじめに行ったわけではないらしいと理解し、ほっとため息をついた。

「友達?」
「あぁ、あのチャラそうなやつがロベルト。髪が短いほうね。で、パーマの奴がキッド。無駄に爽やかな笑顔の奴がエミリオだ」
「へぇ」

笑いかけてくる三人に笑顔を返し、フレデリックはロックウェルに向き直った。

「…話しかけてくれてありがと」
「別に、オレが仲良くなりたかっただけだから」
「うん、ありがとう。ほら、二年目だと結構みんなグループとかできてるじゃん。そんな中どーしよーと思ってた」
「ま、な。オレもロベルトいなかったら特に仲いいって奴いなかったし」

ふふっと笑い、フレデリックが会話を続けようとしたとき、教室の前のドアが開き、担任となる教師が入ってきた。

「げぇっ…マジでか」
「なんで?ロックウェル。あの人まずいの?」
「あぁ、あのさ、あの姿を見てまず普通じゃないとはわかるだろ?」
「うん。すごく肌が青白くて、真っ白な髪は腰まであるし、黒ずくめのスパンコールつきの服なんて、普通じゃないな」

フレデリックが入ってきた担任の容姿を的確に分析していると、その人物が教卓を叩き厳かな声で言った。

「…皆のもの、座れ」
「じゃ、あとでな。フレデリック」

フレデリックに笑いかけ、ロックウェルも自分の席に着いた。

「私が諸君の担任となった…トートだ。トート閣下と呼んでもらおうか」

トート閣下はバサッと髪をかきあげ、怪しげな目つきで生徒たちを見渡した。
その迫力に教室内は水を打ったように静まり返った…。

「では諸君!自己紹介をしてもらおうか!君らのうち誰が私の天使となるに相応しいか見定め…いやいや、君らにお互いを良く知ってもらうために!!」

「ん?なんか怖いこといったよなぁ(汗)」
「エミリオ…安心しろ、貴様は基本的に何事も不合格だ」
「うっ…それ全然うれしくないけど安心っちゃあ安心かな…(汗)ってロックウェル、なんかオレに当たり強いよね?(^▽^|||)」

「そこ!場をわきまえずべらべらべらべらべらべらべらべら喋っているお前!お前からだ!自己紹介をするがいい!」

「うわっなんでオレだけ…ロックウェルもしゃべってたのに…(泣)」
「お前のダメッぷりには敬意を表したいよ(ボソ)」
「ち…畜生(泣)」

しかたなくエミリオは立ち上がり自己紹介を始めた。

「えー、エミリオ・フェルナンデスっていいます!帰宅部です!えー帰宅部だけど運動は好きなんで!5月の球技大会では優勝したいと思ってます!よろしく! (^▽^)」

「………不合格(ボソ)よし!次!後の者!」

「えぇー!(汗)別にいいけどなんかショック…(^▽^|||)」

続いてエミリオの後ろに座っていた黒髪のショートカットの女の子が立ち上がった。

「はーい♪私、パトリシアって言います♪あそこに座ってるフィリッポと付き合ってまーす。でもみんなと仲良くしたいので、よろしくねぇ♪」

大きな瞳をウインクさせながら笑顔を振りまく彼女を見ながら、フィリッポと呼ばれた(田舎くさい)男は感極まりながらうんうん、と頷いていた。

「パトリシアって子、かわいーんだけどなぁ、なんかずれてるな」
「ロックウェル、まぁお前のタイプじゃねーなぁ」
「あぁ、やぁっぱエリザベート先生が一番だろ」
「そーかぁ?確かに綺麗だけど、年増だろ」
「お前はわかってねーな。16やそこらのガキより遥かにいいさ」

たまたま隣の席だったロベルトと話しこんでいると。

「貴様!なにをごちゃごちゃ言っている!次は貴様だ…!」

「ドンマイ、ロックウェル」

ニヤニヤしながら言うロベルトを横目に見つつ、舌打ちしながらロックウェルは立ち上がった。

「ロックウェル・アンダーソンです。所属は一応サッカー部です。映画とか好きなんで、お勧めとかあったら連れてってください。よろしく」

ニコリと品のいい笑みで締め、席に着くと、女の子のざわめきが広がる。

「やっぱロックウェル君って素敵…」
「映画好きなんだって、誘っちゃおうかしら」
「あら!ずるいわ!抜け駆けなしよ」
ロックウェルは女子のヒソヒソ話を心地よさ気に聞いていた。
「お前、やっぱ策士だよな」
「ありがと、ほめ言葉として受け取っておくよ」

そうこうしているうちに自己紹介も半分ほど終わり、次はフレデリックの番だ。

フレデリックが立ち上がると共に、トート閣下の瞳が怪しく光る。

「フレデリック・コーエンです。一年間留学していまして、編入という形でこの学校に来ました。まだ慣れないことばかりですが、早く皆さんと仲良くなれればと思っています。よろしくお願いします」

フレデリックの華やかな容姿に男女共に目を奪われていた。
その視線に気まずく感じながらフレデリックは席に着く。

「………フッ…合格(ボソ)よし!次の者!」

…しかしトート閣下のコワイ呟きを聞いたものはいなかった…。

「…ってかさぁ、なんでロックウェル、フレデリックに話しかけにいったんだ?」
「ん?あぁ、別に。なんで?」
「だってよー、オレは心配だったんだぜ。あいつがかっこいいからってお前がいじめにいったんじゃないかって!」
「はぁー?オレがそんな小さい男に見えるか?強いて言えば…そうだな、直感だな」
「直感?」

怪訝な顔をしながらロベルトはロックウェルとフレデリックを見比べた。

「類は友を呼ぶってことさ。それに、俺とあいつがタッグ組んだら最強だと思わない?学年1モテ男の俺と、これから時の人となるだろうあいつで、奇跡の二人組だな」
「あー、そうですか(汗)」

こいつは性格が良かったら完璧なのに、とロベルトは思った。



一方、3組…

「フランシスコだ!このクラスには顔見知りが一人もいなくて僕は今非常に不安だ!みんな、どうか仲良くしてくれ…!」
「フランシスコ…君と同じようにボクも毎日不安と戦っている…。君とは仲良くなれそうだ…」
「君は…!?」
「…ルドルフ…。昨日も猫を殺してしまったよ…。君、ボクの友達になってくれるよね?」
「……(汗汗汗)」